刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
「これは・・・・・・異空間?」
扉の内側という表現が適切なのかは分からないけれど、漆黒の渦の中は扉が侵入を拒んでいた次の部屋ではなく、薄暗い淋しい空間だった。視界は悪く、前をゆく人影だけが薄っすらと認識できる程度。
肌をなめる不快感で、吐き気を通り越して意識が飛びそうだ。これがゲームの中で登場人物がよく口にする瘴気ってやつなのだろう。画面越しに、用意されたセリフを読んでいるだけの時がどれだけ気楽だったか。吸い込めば否応なく器官を犯していく。
せりあがってくる胃液をどうにか体内に留めながら足早に進むが、どれだけ必死に足を動かしても景色が変わらず、自分が進んでいるのか、留まっているのか、はたまた退いているのかすらも分からない。
「うっ、ごほっ・・・・・・なあインデックス、この瘴気によるダメージはないのか?」
『アークプリーストであるイスカの「リフレクトゾーン」がパーティー全員に展開されており、この”瘴気の破片”によるダメージは無効化されている』
「”瘴気の破片”?」
扉の前で集まっている時にちらりと見えた、十字架の首飾りを付けた優男の名前はどうやらイスカと言うらしい。アークプリーストだなんて大層な名前だ、きっと回復魔法や支援魔法のスペシャリストに違いない。
するといつの間にか前にいたはずの人影と並んでいた。
「これがイスカか?。ん・・・?」
不快感は一向に和らいではくれないものの、確かにこの瘴気でのダメージはなさそうだ。他の皆も平気で進んでいるようだし、もしダメージがあれば何か身体に違和感があるだろう。でも、何故だ?
「・・・・・・ぐっ」
アークプリーストであるイスカが、苦しそうな表情をしているのは?
「なあインデックス。さっき”瘴気の破片”と言ったよな?まさか、瘴気の本体のダメージをイスカが肩代わりしている とは言わないよな?」
『明答だツバサよ。魔人王の放つ濃い瘴気、その破片のダメージはイスカの補助魔法によって無効化されている。が、瘴気の源泉とも言い換えることができる特に濃い瘴気によるダメージは「リフレクトゾーン」程度のバリアでは相殺できぬ。
イスカは「リフレクトゾーン」と共に、パーティーの闇属性被ダメージを自身に1/3の数値にして収束させる「ウェア・チャーチ」をツバサを含めた5人全員に施している状態だ』
プリーストのジョブなくらいだから闇属性への耐性は特に高いのだろうけれど、門をくぐるだけで、あそこまで疲弊するのはまさか・・・・・・
「インデックス。「ウェア・チャーチ」の闇属性被ダメージの数値ってまさか、個別の闇属性耐性で計算されたものだったりするのか?ちなみにオレの属性耐性値はいくつなんだ?」
『2つ目の問いに先に答えよう。
ツバサの現在の各属性耐性値は装備やスキル補正込みで
炎属性プラス70%、水属性プラス55%、木属性プラス85%(最高値)、雷属性プラス5%、地属性マイナス10%。
光属性プラス47%、闇属性プラス63%だ』
属性耐性値の値は%計算か若干ややこしいな。だけど、オレの闇属性耐性は最高値が85%の中で63%なら高い方だろう。ということはオレとイスカ以外の誰かの闇属性耐性が低い可能性があるな。
しかし、魔人王に挑むパーティーで属性耐性を積まないやつなんているのか?初心者ならまだしも、ラスボスまで来る1位のパーティーにおいてそんな初歩的な装備・スキルミスをするものなんだろうか・・・・・・?
『そしてツバサよ。汝の考え通り、「ウェア・チャーチ」の闇属性被ダメージ計算は各自で計算された数値を、それぞれ1/3に変換してイスカに集めるスキルだ』
やはり、そうか。イスカがダメージをそのまま肩代わりをして1/3の数値にしているのであれば、全てのダメージ合算に関してイスカの闇属性耐性値が適応される。しかし、このスキル仕様では被術者それぞれの闇属性耐性値で計算されたダメージの1/3をイスカが請け負っているので、イスカの耐性値がどれだけ高くても、誰かの闇属性耐性値が低ければダメージ量は高くなってしまう。
しかし、何か違和感を感じるんだよなこのパーティー。イスカが苦しんでいること自体もそうだし。そのことを誰もがスルーなのもオカシイだろう、何だこの言いしれない不吉な予感は。