刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
ここは東京のとあるマンションの一室。そのどこにでもある間取りの賃貸物件の一室からは閉められたカーテンの隙間から燦燦と輝く太陽の光が細く差し込んでいた。

「くあっ……」

オレの父親は会社員、母親はスーパーでのパート主婦、歳の離れた兄貴はオレが10歳の時に早々に家を出て行き、今では千葉で家族を作り幸せに暮らしている。

机に積み上げられた漫画や小説が、パソコンのディスプレイから放たれる仄かな光と、差し込んだ日差しに照らされいた。

パソコンからは観てもいないアニメが流されている。今日は今流行りの異世界転生系のアニメをチョイスした。でも、なんだか今一引き込まれるものがなくて、意識は遠くにある。時折気になるワードが耳に入るとチラッと目をやるが、ベッドから起き上がるほどの吸引力は感じられなかった。

「暑ぃ……」

オレはTシャツの襟をパタパタと動かし、身体との隙間に空気を送り込む。とはいえ、エアコンを制限されている蒸した部屋の中でのその行為は、ほんの少し気を紛らわす程度。清涼感とは程遠いものだった。

オレはゆっくりと上半身を起こし、散らかったテーブルの手前に置いておいたサイダーに手を伸ばした。キャップを捻るとシュッと僅かに気の抜けた音が聞こえた。心なしか発泡もダルげに見えてきて、容易に想像は付く状態のそれを口に含んで一気に流し込んだ。

「……ただの甘いぬるま湯だな」

オレはガッカリ感とは裏腹に何故か丁寧にまたキャップを閉めて、ゆっくりとローテーブルの端に戻した。視界の端では、主人公たちにいつもちょっかいをかけてはコミカルにやられて退場していく悪役のお馴染みのシーンが映し出されていた。

だからこれは別に、そのアニメに対しての批評だとか感想だとか、そんな大それたものではなくって。でも、ずっとそれはオレの胸の中に巣食っている感情であることは確かなことで・・・・・・夏の暑さにやられたオレのダレた頭が、勝手にシンクロさせたかもしれない可能性については否定出来ないものだった。

「つまんねぇ。退屈だなぁ……」

音量を下げたアニメのEDと、サイダーの炭酸が抜ける微かな音と、外から聞こえるセミの鳴き声が部屋を侵していく。
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