刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
「アレックス!早く退却命令を!!」
オレは魔族3匹が居るであろう方向に全霊の警戒をしながら、アレックスを説得する。
「無理だ。無理なんだよ」
「無理?何が無理だって言うんだ!もうこの戦いは負けている、これ以上ここに留まる理由はないだろう!?」
インデックス、この戦闘からの離脱は可能か?
『不可能ではない。エリアボスとの戦闘区域に関しては各エリアによって可否が決まっているが、ここ「幽門の間」に於いては離脱が可能となっている。ただし、パーティーで戦闘に臨んだ場合には、パーティーの全滅もしくは、エリアに入る為の鍵を持つパーティーリーダーが退却命令を下した場合に離脱が許される』
助かるぜインデックス。これでもう迷う必要はない。
「・・・・・・ダメだ、無理なんだよ。オレみたいなやつにどうしろって言うんだよ?」
オレみたいなやつ?ボスエリアに入る前に作戦の指揮を取り、皆を鼓舞し、戦場を駆け抜けた勇者のセリフとは思えない。頭がカッと熱くなったのを感じた時には、オレはアレックスの胸ぐらを掴みあげていた。
「何故だ!何故退却命令が出せない!?」
「ひっ……なにを考えてるアーチャーやめてくれ」
アレックスの視線はオレの顔ではなく掴み上げた手と反対の腕を見ていた。オレは無意識に矢を構えその鋭利な切っ先をアレックスに向けて脅していたらしい。
「答えろ。答えればこれ以上は何もしない。何でこの状況で退却命令が出せないのか言え!!」
勇者を矢で脅しているこの状況。憧れていた異世界転生とは似ても似つかないストーリー展開だ。
「それは、だから……オレは、オレはこのパーティーのリー」
「はいは~い、そこまでだヨ」
どこからか声がどこからかした瞬間に、突風が吹きあれほど濃かった土煙が、その面影すら残すことなく一瞬にして晴れる。
ーーなっ!?おい、ふざけるなよ。オレは今一瞬たりともアレックスから目を離さなかったし、それになによりオレは確かにアレックスの胸ぐらを掴みあげていた。それなのに何で、何でアレックスが捉えられてお前らの元にいるんだよ!?
「あーもう。まだ目がチカチカするぅ」
瞬きすら入り込む余地のない瞬間に、ティケルヘリアとカミーラ、ノヴレスがオレの目の前に忽然と姿を現わしていた。それを認識したと同時に、カミーラはアレックスの首と胴を切り離した。噴き出した鮮血が、たまたま近くにいたティケルヘリアの顔や体にかかり、真っ赤に染めていく。
奇妙なことにティケルヘリアはその血飛沫を避けようともせず、ただにたりを笑みを浮かべながらオレを見つめ続ける。
「あなたが光の矢を放ったのですね。全く・・・・・・とても救いがたい」
一見して大人しそうに見えていたノヴレスもやはり怪物。一瞥されただけで、オレの身体からは力が抜け、間抜けにも敵前にして堂々と身体が震え始めたのだ。
「にしても、ほんと使えないワこいつ。危うく私達との盟約まで破ろうとしてたわよ、ふざけてんの?あ?」
カミーラは崩れ落ちたアレックスだった肉塊を踏みつけ肉を潰し、骨を砕き、不快な音と共に血肉を辺りに散乱させながら、不機嫌そうにそうこぼした。
「カミーラ、すぐに果てるとは言え敵前よ、滅多なことは口にしないで」
「は?あたしに命令すんノ?どの口が?」
ノブレスの言葉に切れたカミーラから放たれる邪悪な怒気と、それに反応したノブレスの怒気がぶつかり合う。そのあまりの迫力に、オレは笑いながら膝をついた。「ははは」 と思わず漏れた声に。二匹の悪魔は驚いた様な表情で、オレを見て、そして無邪気な笑顔を見せた。
「御二方、お戯れはこれまでにしましょう。ほら、勇者一行のアーチャー様が恐怖で竦んでしまっているではありませんか。ねぇ?」
そう笑顔で言いながらティケルヘリアはオレの首に両手をかけていた。それは愛でるように優しくもあり、ほんの少し力をかけただけで、アレックスの様に首が捻り飛ぶことを想像させる暴力でもあった。
「ティック、彼は任せるわ。私達は残りを始末してきます」
「じゃあ競走ネ。よーい…………ドン!」