刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
「…………やぁやぁ、皆さん。不躾で悪いんだけどさ、これからの戦いに備えてなんだけど、まさか闇耐性積むの忘れてる人いないですよね?」 そう言ったオレに皆の視線が集まる。ピリっとした空気が流れたのを肌で感じたが、そんなことで引き下がるわけにはいかない。
まず解決すべき問題点として、イスカの『ウェア・チャーチ』での被ダメージがある。
あの魔法は個々の闇属性耐性値から被ダメージが算出され、その値をそれぞれ1/3にしたものの合計をイスカが肩代わりするというものだ。扉を抜ける時のイスカの苦しみ方は尋常ではなかった・・・・・・ミスか故意かは分からないが、闇属性耐性値が極端に低いやつがいるはずだ。
元々、ある程度闇属性耐性値を積んでいたオレが装備やスキル構成を見直しても、恐らく大きな効果は期待できない。そう、その人物に装備やスキルの修正をしてもらわなければ、この問題は解決しないのだ。
「おいおい、ツバサぁ。新参者のお前がよく先達のあたしらにそんな口聞けたな?あ?」
大きな反応を2つ確認。ミーアは厄災の鎧の首元を覆う毛皮を乱暴に掴んで、オレを睨みつける。分かりやすい反応で助かるけれど恐らくこれは奢りや慢心による威嚇じゃないな。
しっかりと準備はしてきたことへの疑いに対して、それについての憤りの様なものだろう。ミーアは一見して露出度も高いし魔法耐性なんか積んでそうもないけれど、しっかりと準備出来ているということだろう。つまり闇属性耐性が低い人物は他にいる。
となると、怪しいのはもう1人の方か……
ミーアはギリギリと掴んだ手の力を強めていく。おいおい、怒りで獣化が出てきてますけど。
「やだなぁ、ミーア先輩。オレは一応の確認として言ってみただけじゃないですか?ねぇ?アレックス」
ミーアの反応から新しい情報も出てきた。数あるパーティーの中で1位のランクにいるこのパーティーにおいても、古参と新参とがあるということ。つまり、最初からこの6人が集まったパーティーではなく、何人かはどこかのタイミングで合流をしたということだ。現時点での確定事項としては、オレは後からパーティーに参加した新参組の一人ということだ。
これも何か意味がありそうな気がするな。
さて、ミーア先輩の行動に隠れて皆の注目から逃れているようだけれど、もう1人が特に何か行動を起こしている様子は伺えない。まさか、このまま隠し通してイスカへのダメージを再現するつもりなのか?だとしたら故意に闇耐性値を低くしている可能性が出てくるけど、狙いはなんだ?
「そうだな、慢心とは怖いものだ。イスカの補助魔法があるとは言え、各自の装備やスキルの見直しも必要だろう。今から2分で各自改めて確認をしてくれ。
さあ、もういいだろミーア、その手を離すんだ」
「ちっ。分かったよ勇者様」
アレックスの一声で解放された。ミーアは恨めしそうにこちらを見ている。どうやらアレックスはうまく手綱を握っているらしい。
一旦、それぞれが各自のスキルセットや装備の確認を行うことになった。とはいえパーティー内と言えども他人の装備やスキルセットは見ることができない。ここはあの人を信じるしかないな。
しかし、どうしてあの人が?
もしこれで門をくぐる時にイスカが請け負う瘴気のダメージが変わらないようなら、残念だけれどあの人を疑う他なくなる。そう思いながら皆が準備をしている姿を見つめるオレのことを、鋭い視線で監視する人がいたことに、その時のオレはまだ気づいていなかった。