刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件

そしてアレックスが準備の為に設けた2分が経った。方々に散って装備とスキル構成を見直したメンバーがまた扉の前に集まってくる。

オレのようにあからさまに装備を変えている人はいないか。さて、あの時にミーアと一緒に大きな反応をしたあの人は、素直にスキル構成を見直してくれただろうか。あるいは……

オレたちはアレックスの周りに円を組むように集まった。

「では、最終確認をするぞ?我々は今から幽門の扉をくぐり、ティケルヘリアを打ち倒し『深淵の鍵』を手に入れる。単体でも相当な力を持つ敵だが、何よりも注意すべきはカミーラとノブレスと呼ばれる魔人だ」

惨敗だった初めての突入では、こっちにきたばかりでインデックスとの脳内会話に夢中になり作戦会議を聴き逃したけれど。この時点ですでにカミーラとノブレスもいることは知っていたのか。でも、ノブレスとカミーラの力量までは知らなかった?

だからこそ、幽門の間に入った時に3匹を見ても動揺はしなかったものの、想定外の力量差に作戦が瓦解したということか。

「作戦は至ってシンプルだ。まずはツバサとミネルヴァが遠距離から攻撃。相手の動きを止めて、こちらから先制攻撃をしかける」
「ええ、任せて」
「OK」

ミネルヴァお姉様とオレが返事をするとアレックスは力強く頷いた。そして話を進める。その姿はどこからどう見てもこのパーティーのリーダーにしか見えない。

「イスカはいつも通り、補助と回復に専念。2人の攻撃を突破口にしてオレとミーアでまずは厄介な能力を持つカミーラを引きはがし打ち倒す。みんなはその間、できる限りティケルヘリアとノヴレスをオレ達に近づけさせないように立ち回って欲しい」

ふむ。前回は作戦会議を聞き逃してしまったから即席で立ち回ったけれど、大筋は合っていたようだな。ただ、後方からの攻撃で相手を分断しつつ、アレックスとミーア先輩とで各個撃破を狙うのが主な作戦だったのか。しかし、これは……

「後方からの援護の手を緩めるつもりはないけれど、ティケルヘリアとノヴレスを相手に私とアーチャーだけで分断を維持出来るかしら?」

そう、あの三匹は一匹たりとも容易に分断できるとは思えない。楽観的にみてティケルヘリア単体ならば止めることは不可能ではないかもしれないが、一緒にノヴレスも抑える必要があるとなると難易度が段違いに引き上がる。

アレックスは「うむ・・・・・・」 と唸って、口を開く。

「正直な話……かなり難しいとは思う。でもオレ達は今までだって無理だと思われた魔人を皆の力で打ち倒してきた。今回もそうだ!
無論、これまでよりも相当に難しい戦況になると覚悟しておく必要はある。だから30秒だ。オレたちも命懸けで30秒でカミーラを討つから、皆にも30秒ティケルヘリアとノヴレスをどうにか抑えて欲しい。
次に同じ要領で2匹を分断し先にティケルヘリアを、そして全戦力をもってノヴレスを討つ」

30秒か。ゲームのボス戦と考えたら30秒は決して長くはないように思える。だけど、オレは身をもってやつら三匹の力を体感してしまっている。あの化け物を相手に30秒もの時間を稼ぐことがどうにも想像できない。

「不安そうだな、ツバサ」

アレックスは穏やかな表情でオレを見ていた。不安が表情に出ていたようだ。

「あ?またお前いちゃもんつける気かよ?アレックスの作戦以上に良い案がお前にあるのか?あぁ?」

ミーアは不機嫌そうな顔でそう言った。

「ミーアはすぐにツバサにつっかかるね」

オレに詰め寄るミーアを見て柔らかく笑うイスカ。イスカのこんな表情を初めてみる。

「愛情表現が下手ね、まったく」
「はあ?誰が誰に愛情表現してるってのさミネルヴァ!」

これから魔神王の元に向かおうとしているのに穏やかな空気が流れている。そんな皆のことをアレックスは優しいまなざしで見つめていた。そして、場の空気を引き締める為に咳ばらいをして話し始める。

「まぁ、今回も不測の事態は起きるだろうし、その時々で皆には臨機応変に行動してもらうことになることだろう。つまるところ皆を信じて頑張るしかないわけだけど、オレたちはそうして現在1位のパーティーとして魔王城の最奥にまで足を踏み入れている。

このパーティーだからここまで来れた。このパーティーだから魔神王にも刃が届き得ると思っている。さぁ、いくぞ」

アレックスはそう言って立ち上がり、業火の様な大剣を円陣の中央に向けてかざす。

アレックスか大剣を突き出して、ミーアが「にしし」っと笑いながら右の拳を大剣に重ねた。ミネルヴァお姉様が杖を重ねるとあしらわれた宝石が輝き、赤い光が剣に反射して揺れた。イスカは首から下げた十字架を握り締め祈りを捧げながら聖典を開いて重ねる。

そしてオレもゆっくりと弓を重ね、最後にアサシンが無言で暗器だろうか?小刀を重ねる。皆がエモノを重ねたのを見て、アレックスが洞窟にこだまする程に高らかに声を張り上げる。

「ゆくぞ!魔神王を我らの手で葬り去ろう!!」

「「「うぉぉぉおっお!!!」」」

ーーーーさぁ、2度目の挑戦の始まりだ。
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