刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
再び足を踏み入れた扉の中に広がる異空間、その漆黒の渦の中は扉が侵入を拒んでいた次の部屋ではなく、薄暗い淋しい空間を経由している。視界は悪く、前をゆく人影だけが薄っすらと認識できる程度。

肌をなめる不快感は慣れるものではなく、重度の乗り物酔いをしたかのような吐き気を通り越して意識が飛びそうになる。酸素が薄いのか、瘴気による毒素のようなものなのか、息を吸うと否応なく不快感が器官を通して身体を犯していく。

せりあがってくる胃液をどうにか体内に留めながら足早に進もうとするけれど。どれだけ必死に足を動かしても景色が変わらず、自分が進んでいるのか、留まっているのか、はたまた退いているのかすらも分からない奇妙な感覚だ。

「さてと・・・・・・前にいるのはイスカだったはず。どうなっているかな?」

不快感は和らいでいないけれど、瘴気によるダメージがオレにはほとんどないことからして、イスカの補助魔法はしっかりと機能している。これでイスカが苦しんでいなければ、オレの疑惑は払しょくされて待っている戦闘に専念できる。

「きっと大丈夫さ・・・・・・」 そう呟きながら、オレは必死で足を動かし、僅かでも早く進もうとしていた。労力分の成果があったのかは分からないが、次第に前を歩くイスカとの距離が縮み始め、いよいよ肩が並んだ。

異空間は依然として歪み、渦巻き、僅かな光を放ちながらもそれを飲み込んでいる。

そしてイスカより数歩手前に出て「大丈夫だよな・・・・・・?」 と、不安に感じながら、オレはイスカの様子を伺った。ずしんと胸のあたりが重くなる。

「うっ・・・・・・ぐう」 と漏らすその表情は、確認するまでもなくダメージによる苦悶をありありと物語っていた。

「くそっ・・・・・・」

これで確定してしまった。イスカへのダメージを意図的に吊り上げているのは、あの人だ。けど、やっぱり理由が分からない。なんであの人は闇耐性値を下げるなんて回りくどいやり方をして、イスカを苦しめているのだろう。

イスカに本来の力を発揮させないようにしている?メリットがない。魔神王を倒すという目的で動いているのだったらイスカの力は必要だし、そもそもパーティーメンバーを貶める意味はない。

だとしたら・・・・・・あの人は魔神王を倒すつもりがない?

「いやいやいや、だったらなんでここにいるんだよ。そうだ、きっと闇耐性を上げる装備やスキルがなかったんだ。そうさ、それが一番分かりやすいじゃないか。

そうだよ・・・・・・これは不可抗力で」

そんな風に口に出して見れば、自分の中の気持ちを誤魔化せるのではないかと思ったのだけれど、疑惑への確信はわずかばかりも薄れることは無かった。

「イスカ、もう少しで抜けるよ。頑張れ」

そう言ったオレの顔を見て、イスカはどこか哀しそうに笑ったんだ。

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