刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
「ん?」 その時、異変を感じてラノベを選ぶ手が止まった。何か分からないけれど、明らかにさっきまでと何かが違う……

オレは辺りをそっと見渡した。特に変化は見られない。2階にはそもそも人がまだ居なかったし、異変なんてある訳がない。そう思った時に、違和感の正体に気づく。

「さっきまで子どもの声がしていたのにすげえ静かだな、ていうか静かすぎるだろう!?」

いつの間にか、ついさっきまで母親に話しかける子どもの声が聞こえていた。館内にはオルゴールが流れていたはず。

それなのに、この不気味な静けさはなんだ?有り得ないだろう。公共機関で無音だなんて、幾ら静かにするのがマナーである図書館においても不自然すぎる。

「……っ」

さっきまでとは種類の違う汗が額から零れた。全身に鳥肌が立ったのはきっと館内冷房のせいではない。

「なんか気味悪いな・・・・・・さっさと選んで、今日は借りて帰ろう」

オレは当初の予定だった冷房の効いた館内での読書は断念することに決めた。すぐに帰る選択肢を選ばなかったのは、ほんの些細な冒険だったとしても何かしらの成果は欲しかったからだ。

「もう今この目の前にある本棚の中から選んで、それを借りて帰る。とにかく1冊ぱぱっと決めちまおう」

そうして言葉に出すことで不安な気持ちを少しでも払おうとしていたのかもしれない。気の所為ではなく視界が狭くなっていて、目の前の本を選ぶだけのはずなのに目がチカチカとした。

こんな時に限って、コレというタイトルが見当たらない。

「くそ、いくら図書館だからってここまで静かになるこたねぇだろ」

無音の中で大きく心臓の音が聞こえる。脈動をここまで鮮明に体感するのは初めてかもしれない。どんどんテンポを速めていく鼓動に気持ちも急かされる。不安な気持ちも確かだけれど、それよりも身体が、本能が警鐘を鳴らしているように思えた。

上から2段目までは、目ぼしいタイトルなし。この辺は、ほんとに人気のない作品ばかりが集められているのか?さっさとこの場から離れたいのに・・・・・・

「ん?」

その時、周りは3,4巻で完結している幾つかのシリーズ作品に囲まれて1タイトルだけ、シリーズ物でもなく1巻完結の本を見つけて、オレの目は吸い込まれるように止まった。タイトルが日焼けして読みづらいな。

< 5 / 36 >

この作品をシェア

pagetop