刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
「『--になってラスボス攻略!キーマンは--だってオレの勘が叫んでる』?大事なとこ日焼けしやがって、よく分かんねぇなこれだけじゃ」
少しだけ本を開いてみようと思って手を伸ばそうとした瞬間、出そうとしていた右手の甲にチリッと弱い電気が流れるような感覚がした。痛みと言うほどのものではなかったしオレはそのままその本に手を伸ばしていく。
「また、心臓がうるさい・・・・・・」
さっきよりも確かに強く心臓が脈を打っていた。もうそのことに気がついた時には、差し出した手を引くことなどできず、オレは日焼けの激しいその本を棚から取り出した。
「なんだよこれ?表紙絵がない----!?」
タイトルも日焼けで読めず、表紙にイラストもタイトルすらも書かれていない。異質。これだけの本に囲まれながらも、手の中にある本は異質そのものだった。
ゴクリと固唾を呑んで、オレは小刻みに震える手で表紙に手をかけた。
ゆっくりと、何も描かれていない表紙をめくっていく。
途端。「なっ!?」 と声をあげる間もなく視界に写るもの全てが歪みだした。目の前の景色がトリックアートにでもなってしまったかのように歪み、ひずみ、途中で千切れ、折り重なり、それがあった場所から放たれる螺旋のように回転していく。
そして、急速に歪んだ世界は、その一点に向けて収束をしだした。それを視認した頃には既にその圧縮に身体も声も、意識でさえも飲み込まれていて、床も天井も本棚も、オレとその本以外の全てのものが瞬く間に圧縮されていった。
「うわわぁぁあああっ!」
そして音も臭いも景色も何もかもが、その本に吸い込まれ、反射的に目を閉じたオレの身体が、抗いようの無い引力によって吸い込まれていく感覚までは記憶している。
----でも、目を開けたそこにあったのは手に取った小説でもなければ、6段構えの本棚でもない。
そこにあったのは、光り輝くオーブを手に持つ女神の像と、深淵の奥底にでも放り込まれたかのような息苦しさのする洞窟が、心許ない松明で照らされる空間。
そして、さっきまで見る影も無かった5人の人物が立っていた。