あかいろのしずく
というわけで、色々と名前を付けた後になって気づいたことはあったらしいが、結果、七草は七つの香りがあるはず、ということで七香(ななか)である。
「あ、さゆりさん!」
その日は卒業式があった。まだ桜も咲いていない三月の日だ。
式が終わった後、偶然私はさゆりさんと廊下で会うことになる。
前から歩いてきていたさゆりさんはこちらに気づくと、「七香ちゃんだ、こんにちは」とひらひらと手を振って近づいてきた。
カバンを背負っているから、帰ろうとしていたんだろう。
「調子はどう?」
「はい、大丈夫です、元気です! 腕だけまだ治んないんですけど、あと少しで治りますよ」
「そっか、良かった」
包帯でぐるぐる巻きにされている自分の左手に視線を落とした。
もう二か月ほど前だ。あの事件から、それだけ長い時間が経ったのである。