広瀬くんは、いっぱい食べる私が好き
「そんなことないよ。忙しいどころか楽しい。学校の調理実習より料理に集中できるし」

餃子のたねをこねながら話す広瀬くんは、本当に楽しそうだ。

「日下部さんはいつもこのお手伝いしているの?」

「あー、うーん。したりしなかったりかな。メニューによっては手がかかるものがあって、そのときは手伝うけど……」

お父さんから強制されているわけではないので、気が向いたときに手伝うゆるーい感じだ。

手伝うと美味しいご飯がたくさん食べられるから、それはそれで楽しいけどね。

「そうなんだ。日下部さんってご飯を作る方は興味ないのかい?」

「え、いやー、嫌いじゃないんだけど。そのー」

少し恥ずかしい話なので、私は声を落とす。

「私……かなりつまみ食いが多くて……下手すると完成前に半分以上食べちゃったりして……」

「あはは。そうなんだ。でも確かに作ってる途中でも美味しそうだもんね」

広瀬くんは優しく笑ってくれた。

「じゃあ日下部さん、あまり自分では作らないの?」

「うん。昔、ハンバーグのたねをこねているとき、美味しそうだからそのまま味見をしたら、かなりお父さんにビックリされちゃって……それからは一人では料理させてもらえないな」

「日下部さん………生肉はダメだよ、絶対に」

広瀬くんから笑顔が消えた。

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