広瀬くんは、いっぱい食べる私が好き
広瀬くんがクスッと小さく笑う。


「日下部さんが居てくれて心強いよ」


そう言った顔は、つい今までのそれより柔らかでリラックスしているように見えた。

もしかしたら……広瀬くん、ずっと緊張していたのかもしれない。

それこそ餃子を包み始めるずっとずっと前から。


「よし、それじゃあ日下部さんにいっぱい食べてもらえるように頑張ろう」

「う、うん!そうだよ、そうだー。楽しみにしているから」


停滞していたのが嘘のように、広瀬くんは手際よく餃子を包み始める。

長い指が流れるような動きで、次々にきれいな形の餃子を生み出していく。

その横顔は真剣で、だけど楽しそうで。

私はそんな表情がとても好きだと思った。

……料理をしている広瀬くんが好きだと。


(……って、違うからねー。この好きは友情とか親しみとか……とにかくライクの方の好きだからねー!)


ああ、でもなんだろう。

広瀬くんのとなり。

彼に触れそうなほど近い私の右肩が。

なんだかくすぐったい。


***

それから十分ほどで餃子包みは終わった。

あとはホットプレートで一気に焼いて、みんなで食べる。

私のお腹もいよいよ本格的に空腹を訴えてきた。


わああ、餃子の焼ける音が聞こえる。

そしてこの匂い。

早く早く早く焼けないかなあ。


「………ふふっ」

「!?広瀬くん、今なにか笑った」

「ごめん。日下部さんが楽しそうだから」

「だから……?」

「僕も楽しくなったんだ」


それっていい意味で?なのかな。



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