広瀬くんは、いっぱい食べる私が好き
「広瀬くん、今日はありがとう。おかげで助かったよ」

お父さんがニコニコしながら、私たちのテーブルにやってきた。
広瀬くんはやや姿勢を正して軽く頭を下げる。

「いえ。僕の方こそとてもいい経験になりました。すごく楽しかったです」
「そうかい?ありがとう。
料理教室といっても特別なことを教えたりしているわけじゃないから申し訳なかったかなーと思っていたんだ」
「そんな。本当に楽しくて……うれしかったです。誰かと料理をするのが久しぶりだったので」
「………そうか。
良かったらまた手伝いにきてくれるかな?広瀬くんの都合のつくときでいいから」

お父さんの言葉に広瀬くんが目を見開く。

「いいんですか?」
「ああ。大歓迎だよ。広瀬くんは熱心だし料理の手際もいいし、とても助かるからね」

それに……とお父さんが私に視線を向ける。

「和花もその方が楽しいだろうし」
「……っむぐ」

ちなみに私は広瀬くんたちが話している間も餃子を食べ続けていた。
そんなところに急に話を振られたものだから喉に積めそうになってしまう。
慌ててお茶で流し込んだ。

「だよね、のんちゃん」
「んっ、うん。も、もちろんっ。もともと私が誘ったんだし」
「日下部さん、ありがとう……」

広瀬くんが笑う。
綺麗に。うれしそうに。

……あれ。なんか変だな。
まだちょっとだけ胸のあたりが苦しい。
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