ただひたすらに君が好きだ
そして、今に至る。


煙はだんだんと薄くなり、消えていった。火葬が終わったのだと分かる。


それでも俺は戻る気にはなれなかった。

彼女の骨は絶対に見たくなかった。


怖かったのだ。


もう彼女の肉体すらない現実が。


全て終わってしまったのだと。


珱の居ない毎日が始まったのだと。



「珱…お前も嫌だろ……?」



こんな現実。


「未練しかないわー」

「だよな」


、、、、、、、?


今誰と会話した?

母親…の声ではない。もっと元気で身近に居た……


「よ……う……?」

「ほえあ?」


後ろを振り返ると珱が腕組をしてこちらを見ている。


「え、あ……晴…?」


恐る恐る近づく2人。触れた手は。


「冷てえ」


生きてる感じを全く感じさせない冷たい手。


「ひゃああああああああああぁぁぁ!!!」


もちろん俺じやない。

珱が、悲鳴を上げて後ずさりした。


彼女の焦りとは裏腹に俺は落ち着きを取り戻した。


彼女が死んだのはこの目でたしかに見た。しかし今、目の前に珱が居る。

つまり

「お前、幽霊か…?」



珱はまだ言葉が出てこないといった様子。


「なの…かな……」


絞り出したのは小さな声。


いつも大声の珱とは思えない。


おずおずと俺に近づきまた、手を合わせる。


「触れる…?」

「別に俺霊感なんて…あ」



だいぶ前になくなった母方の祖母がそういう体質だったと、聞かされてきていた。しかし母も俺もここまで見ることはなかったから途絶えていたのだろうと思った。

それと同時にもう一つの考えが浮かぶ。


確かばあちゃん
「その時がくれば見えるよ。特に一世代後の晴ちゃんはね」



そんなとこをぐるぐると考えていると珱が俺の腰あたりに抱きついてきた。


「珱…お前……」

「みんな…泣いてた。私が不幸にした」


「医者も言ってたけどな、お前のせいじゃない。あれは誰のせいでもない、事故なんだ」


誰も予想していなかった。

「落ち着け珱」


抱きついてきた珱を俺は胸の中に閉じ込める。

冷たい。生気が全く感じられない。その体が小さく震えている。

「俺はここに居るから。ちゃんと、居るから」



ようやく落ち着いたのか珱の身体が離れる。

服装は倒れた時のまま、顔は、肌は血の気は一切なかった。



「落ち着いたか?」

「うん……」


ひとまず彼女を座らせる。




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