異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。~王子がピンチで結婚式はお預けです!?~
「身元を明かさないあたしに、シェイド王子は『その真っ赤な髪から〝ローズ〟と呼ぶことにする』とか言って、新しい名前をくれたわ。そのあと、シェイド王子にだけは事情を説明したんだけど、全てをわかったうえで受け入れてくれた」
「ふたりにそんなことが……」
微笑ましい気持ちになっていると、ローズさんは唇で弧を描きながら自身の手のひらを見つめる。
「ええ、だからそばにいるのに相応しい人間でいるために、あたしは王宮主催の馬上槍試合の一騎打ち――ジョストに参加して正式に騎士になったわけ。幸い王子だったから、剣術は習ってたしね。そういえば……アスナとはこのジョストの決勝戦で引き分けになって、この頃からの同期だったわね」
懐かしむように遠い目をした彼はこれで話は終わりとばかりに腰に手をあてると、クワルトに詰め寄った。
「――で、聞きそびれてたけど。あんたはどうして、あたしたちに協力するのよ」
突然の追及に目を瞬かせたクワルトが「それは……」と呟き、視線を私に移す。
「大事な人を助けたいからです」
その意味深な言葉に、心臓が静かに音を立てた。
なんとなく彼に抱く懐かしさの答えがそこにあるような気がしたのだが、漠然とした不安に襲われて、私は真意を問うことができなかった。