異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。~王子がピンチで結婚式はお預けです!?~
「相手が誰であっても、目線を合わせて話せるあなたを尊敬してる」
「……これは試されてる、ととっていいのか?」
自身の口元を片手で覆ったシェイドは、目線だけを私に寄越す。
「試されてる?」
言われた意味がわからず聞き返すと、なぜかシェイドは恨めしそうに軽く睨んできた。それだけでなく呆れのこもったため息をついて、いきなり私の手首を掴むと力任せに引き寄せる。
「――無自覚とはいえ、大抵の男はそんなふうに持ち上げられれば調子に乗って誘っているのではないかと勘違いする。俺も男だからな、愛する女性とふたりきりで手を出さずにいられるほど聖人君主ではない」
琥珀の瞳に熱が孕んだ気がして、私は息を呑む。その吐息や眼差しがまるで私を誘惑しているようで、つい流されてしまいそうになる。
でも、自分の理性をフル動員した私は強く目を閉じ、勢いで彼の頬に口づけた。
「……っ、今はこれで我慢してちょうだい」
やることは山積みで、それも結婚前だ。物事には順序というものがある、と自分に言い聞かせた。
シェイドは突然のキスに頬をおさえたまま、目を見張っている。私がこんな行動に出るとは思ってもみなかったのだろう。
そこまで驚かれると返って恥ずかしくなり、顔に熱が集まる。知らず知らずのうちに俯いていると、私の頬にシェイドの手が添えられた。
「申し訳ないが、それでは足りない。だから、せめて――」
その言葉の続きは行動で、ということらしい。シェイドは両手で私の顔を上向かせると、息も吸う間も与えずに唇を重ねてきたのだった。