やっぱ、お前は俺じゃなきゃダメだろ


泣くだけ泣いて帰宅した朋世は、玄関先で「ただいま」と挨拶する。
腫れた目元も公園の水道で冷やし、辛いことなんて一つも無かったようにいつもと変わらない明るい声で。

「お帰り、朋世。ねぇ、要君とはちゃんと会えたの?」

玄関まで出迎えた朋世の母は挨拶もほどほどに尋ねた。
朋世は聞き慣れない名前に「要君?」と小首を傾げる。

「やだ……もしかして会えなかったの?幼稚園の時にお隣に住んでいた菅田 要君よ」

「菅田 要……菅田 要……」

母に聞かされた名前を復唱しながら十年あまり前の記憶を懸命に(さかのぼ)った。
朋世の脳内でピカーっと何かが光輝く。

「要君!」

朋世は玄関先で大きな声を上げた。
幼稚園の頃、憧れのヒーローだった要君。
引っ越しの別れが辛すぎて大泣きした。

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