やっぱ、お前は俺じゃなきゃダメだろ
母がトントンと野菜を切る規則正しい音を聞きながら時間を過ごす。
要君……
幼稚園の頃の彼を思い浮かべて、小学生、中学生、高校生と想像の範囲で成長させていく。
「……うわっ!」
朋世はある人物の顔を思い出してソファーから飛び起きた。
その声に母は驚いて「急に大声出さないで……」と自らの胸をそっと撫でる。
「ごめん」
朋世は素直に謝ってソファーから立ち上がると、「ごはん後で食べる!」と言って二階の自室にかけ上がっていった。
部屋に入ってバタンとドアを閉めると、今度はベッドに勢いよくダイブする。
間違いない。
公園で会ったあの男の子がきっと要君だ……!
朋世は全身の血の気が引くのを感じた。
何が“誰かも分からない名無しの権兵衛”だ。
めちゃめちゃ知ってるっつーの!
ベッドの傍にあるカーテンを少しだけ開いて隣の家を窺う。
ちょうど朋世の部屋の向かいにある部屋の電気がついていて、彼女は焦ってパッとカーテンを閉め切った。