仮想現実の世界から理想の女が現れた時
学生の頃から俺は、鬱陶しいほど、モテてきた。

だけど、31年、生きてきて気付いたことがある。

モテてるのは、俺じゃない。

俺のルックスや肩書き、年収、そんな、俺に付随する条件たちだ。

だから『ちょこさん』に惹かれるのかもしれない。

そんな俺の条件を知らない状態でも、礼儀をわきまえた程よい距離感を保ちつつ、人懐っこく語りかけてくれるから。

瀬名暁里は、ルックスを差し引いても、明るくて、親しみやすくて、表情豊かで可愛らしい。

ほんの5分話しただけでこんな風に思うのは、初めてかもしれない。

俺は、初めての感情に戸惑いながらも、面談を最後まで続けた。



19時。

「お先に失礼します。」

瀬名の明るい声がフロア内に響く。

顔を上げると、瀬名が、営業の田中と連れ立って帰って行くのが目の端に止まった。

なんだ、彼氏いるのか。

瀬名の事を感じがいいとは思ったが、別にだからどうこうというほどの事じゃない。

…じゃないのに、なぜかがっかりしている自分がいて、驚いた。



その夜、俺は面談結果をもとに今後の方針を考えていて、会社を出るのが10時を過ぎてしまった。

会社を出て、隣のビルの地下駐車場に向かおうとしていたら、瀬名が営業の田中に抱えられるようにして歩いてきた。


女が酩酊状態って…

彼氏なら、もう少し早く止めてやれよ。

そんなことを思っていると、

「お疲れ様です、佐久間部長。」

と田中が挨拶してきた。

その声に反応して、瀬名も顔を上げる。

「佐久間ぶちょお、お疲れ様ですぅ〜」

敬礼でもするように右手を挙げた瀬名はそのままよろめき、かろうじて田中に支えられて難を逃れる。

「すみません…」

ん? なんで田中に謝られるんだ?

「見事な酔っ払いだな…」

俺は少々の嫌味を込めて言う。

「タクシー捕まえて帰りますので、失礼
します。」

頭を下げる田中を見て、何故だかそのまま帰すのは癪に触った。

「待て。
今日は、車だから、送ってやる。
瀬名の住所分かるか?」

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