仮想現実の世界から理想の女が現れた時
はぁ…

「俺は帰る。
お前はさっさと寝ろ!」

そう言って、瀬名の手を解こうとしたが、思いのほかしっかり握っていて外せない。

「ぶちょお、歓迎会しますよぉ。
ほら、飲みましょ?」

瀬名は酔ってとろんとした目で、へらっと笑う。

ったく、こいつは…
自分の価値が分かってないのか?

田中もよく、上司とはいえ、俺にこいつを任せたな。

こんな無防備に笑われたら、女に辟易としてる俺でさえ、うっかり手を出しそうになる。

田中が、手を出すなと、念押ししたくなる気持ちが、痛いほどよく分かった。

これ以上、ここにいるのは危険だと判断した俺は、瀬名が握って離さないワイシャツを脱ぎ捨ててシャツ一枚になると、そのまま廊下に出て、さっきの鍵で戸締りをし、鍵を郵便受けの中に入れた。

俺は、昔読んだ源氏物語を思い出していた。

俺は空蝉か、まったく。

7月でよかった。

俺は心地いい夜風の中、車に戻り、帰宅した。

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