仮想現実の世界から理想の女が現れた時
俺は車に戻ると、更に山道を走らせる。

着いたのは、総貯水容量日本一のダム。

「先週、水曜日から大雨が降っただろ?
だから、運が良ければ、放水が見られるかも
しれない。」

俺がそう教えると、暁里は興味深かそうにダムを眺める。

先週、暁里が初めて契約を取った日から、台風の影響で3日間全国的に大雨が降り続き、各地に被害をもたらした。

ダム湖を眺めながら手を繋いで歩いていると、サイレンが鳴った。

「放水だ。」

俺は放水が見られる場所に暁里の手を引いていく。

放水が始まり、コンクリートの斜面を水が流れ落ちる光景に、人々から感嘆の声が上がる。

「これ、何で?
鱗みたい。
わざとこうなるように作ったの?」

流れ落ちる水が、白い鱗模様を描いているのを見て、暁里が聞いた。

「こんな模様が出るのは、偶然らしいけど、
綺麗だろ?
ダム湖の放水って、滝のように落ちるイメージ
だったけど、この鱗みたいなのもいいよな。」

俺は暁里の腰に手を回して抱き寄せる。

放水のせいか、少し気温が下がった気がする。

しばらく眺めて、放水が終わると、

「遅くなると、家の人が心配するから、
そろそろ帰るか。」

と暁里を促した。

< 168 / 227 >

この作品をシェア

pagetop