仮想現実の世界から理想の女が現れた時

10時。

「瀬名、行くぞ。」

俺は瀬名に声を掛けて、席を立つ。

隣に並んだ瀬名に確認する。

「情報、入ってるな？」

「はい。」

「今日は何も喋らなくていいから、黙って
見てろ。」

「はい。」

今日は見学だけ。

それでも、先方の知識があるのとないのとでは、理解できる営業トークの量が変わってくる。

2人で電車を乗り継ぎ、訪問先に向かう。


「こんにちは。
ヒロセ事務機器の佐久間と申します。
本日10時半に佐藤部長を訪問する約束に
なっているのですが、いらっしゃいますか？」

俺は営業スマイルを浮かべて受付で挨拶をする。

「はい、少々お待ちくださいませ。」

受付嬢が内線をかける。

「3階でお待ちしております。
左手のエレベーターでお上りください。」

「はい。ありがとうございます。」

俺は笑顔で会釈をしてエレベーターに向かった。


3階に着くと、エレベーター前で女性が待っていた。

「佐久間様ですね？」

「はい。」

「こちらへどうぞ。」

案内されたのは、会議室。

「まもなく佐藤が参りますので、かけて
お待ちください。」

そう言われて、俺は出口近くの席に瀬名を座らせ、その隣に俺も座った。

3分程してドアが開いたので俺が立ち上がろうとすると、その前に瀬名が立ち上がった。

お？
新人の営業でこれができる奴に初めて会った。

「佐藤です。初めまして。」

「佐久間と申します。
本日はお忙しい中、お時間を取ってくださり、
ありがとうございます。
今日は、新人の瀬名を連れて参りましたので、
同席させてください。」

双方挨拶をして、名刺交換をする。


挨拶を終え、着席すると、俺は佐藤部長を相手に営業トークを繰り広げる。

瀬名は横で黙って聞いていた。

いつも通り、まずまずの手応えを感じてその会社を後にする。