ラブパッション
眠れないまま迎えた着任初日。
私は無意味に朝早くから起き出して、念入りに身支度を整えた。


駅までは、マンションから徒歩十分。
電車を一回乗り換えて、オフィスまでの通勤時間は三十分ほどのはず。


朝の時間をのんびり過ごそうと思ったけれど、私にとって人生初めての東京の通勤ラッシュ。
乗車率二百パーセントと言われても、想像もできない満員電車。
乗れるのか不安になって、結局私はだいぶ早い時間にマンションを出た。


覚悟はしていたけど、東京の通勤ピーク時の満員電車は、想像を絶する混み様だった。
ボロボロになって、ようやく乗り換え駅に着いた時、私はもう泣きそうだった。


ほんの数日前とは、天と地ほど違う通勤風景。
倉庫までは、シャツとジーンズという楽な格好でマイカーに乗り、渋滞知らずの田舎道をのんびり運転するだけ。
事務所に飛び込んですぐタイムカードを押せたあの日々を、初日から懐古してしまう。
それでもなんとか東京本社の最寄駅に到着して、私はお腹の底から息を吐き、肩に力を入れた。


東京でも有数のオフィス街。
駅から出ていくビジネスマンの群れにのまれ、流されるままに歩いていたら、空に聳えるように高いオフィスビルに辿り着いた。
< 10 / 250 >

この作品をシェア

pagetop