ラブパッション
さっきよりも強く床を蹴って走り出す。
人の波に紛れ込んでしまう前に、玄関ポーチで、彼の広い背中に抱きついた。


私の腕の中で、周防さんが息をのむ気配を感じた。
一瞬彼が強張ったのも、私の身体にリアルな振動で伝わってくる。


「椎葉さん」

「好き。聞き分けないってわかってるけど、こんなに我儘になるのも、全部周防さんのせいなんだから」


周防さんの背に顔を埋め、彼のお腹に回した腕にぎゅうっと力を込める。


「オフィスで出会っても、周防さん、私のこと知らないフリした。それでいて、思わせぶりなこと言ったりしたりして、私を狂わせたのは周防さんです。なのに、酷い。ズルい」

「っ……」


周防さんも、自覚はあるようで小さく口ごもる。


「……それは」

「何度拒まれても諦められない私を憐れんで、同情してくれるだけでいい。私が正気に戻れるように、責任とってください」


こんな言い方、ほとんど脅しだとわかっていながら、私は彼の良心に訴えかける。
周防さんが、小さな溜め息をついた。
そして。


「椎葉さん。とにかく離してくれないか。……ここじゃ、人目につく」


言葉と同時に、私の両手に彼が左手を重ねた。
解こうとする力に促され、私は腕を離して彼の背中から一歩後ずさった。
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