ラブパッション
『優さんへの想いを断ち切る』という名目で、私は彼に抱いてもらっている。
なのに、こうして温もりに包まれると、目の前にある一時的で限定的な幸せに浸ってしまう。
私の喉がひくっと鳴ったのを拾ったのか、


「……夏帆?」


探るように呼びかけられ、何度も首を横に振って応える。


「……なんでもないの」


喉に引っかかって掠れる声でそれだけ返し、さらに腕に力を込めた。
胸の中で膨らみ続ける想いを、見透かされてはいけない。
なのに求めてしまうのは、もうほとんど本能だ。
後にも先にも進めず、雁字搦めになりそうで、私は優さんの耳元で苦しい吐息を漏らした。


「優さん……」


掠れた声で呼びながら、彼の頭を掻き抱き、ねだるように唇を寄せる。
優さんは、一瞬ピクッと身体を震わせた。


「君……俺のこと、嫌いになってくれる気、ある?」


そう言って、わずかの間逡巡していたけれど、甘いキスで応えてくれる。
身体の芯がゾクッと震える、ねっとりと官能的なキスを交わすうちに、私は恍惚としてしまう。


優さんは、私の頬を撫でながら、舌を絡めるキスを続ける。
その左手には、結婚指輪がはめられたまま。
彼に抱かれて見る夢も込み上げる幸せも、全部まやかしでしかないことを、その冷たい銀色の光に思い知らされる。


彼が私に嫌われようとしてなすどの行為よりも、それが一番残酷だ。
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