ラブパッション
歪な関係
一週間も後半に差しかかった木曜日。
銀行の担当者と電話でやり取りを終えて一息つくと、私はパソコンに向かった。
社内の別部署から届いていたメールの返信をしようとして、そわそわと落ち着かない、どこか浮足立ったオフィスの空気が気になり、そっと辺りを窺う。


今日は、朝からオフィスが慌ただしい。
菊乃が教えてくれたけど、成功すれば社の業績を左右するほどの、大口取引の商談が行われるそうだ。


部長と担当者の優さんだけじゃなく、普段はこのフロアで姿を見ることもない、営業部門の執行取締役常務が役員応接室に入ってから、もう二時間が経過している。


商談は難航しているのか、それとも細部まで詰めて白熱しているのか。
少し前に内線電話が入って、前年度のマーケティング資料と業績推移表を持ってくるよう、依頼があった。
課長に指示された先輩が、お茶を淹れ直しに行ったりして、フロアに残っている人たちも、どこか忙しない。
自分の仕事を進めながらも、みんなが役員応接室の商談の動向を気にしてる。


「……この商談、無事成約ってことになると、海外営業部の業績に、年間で一億上積みが見込めるんだって」


隣の席で頬杖をついていた長瀬さんが、私に目を向けないまま、そう言った。
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