ラブパッション
白昼のオフィスビル。
昼時のエントランスは人の往来が多く、とても賑やかだ。
五月下旬、正面玄関の向こうに広がるオフィス街の大通りには、初夏を思わせる燦々とした日射しが注ぎ、明るくキラキラと輝いている。
そんな中、私の網膜に浮かぶのは、一条の光も射さない闇の中、背徳に溺れる私の姿――。


「っ……」


身体の芯でなにかがきゅっと疼くのを覚え、私は慌てて妄想を払おうとした。
一度ブンッと頭を振り、気を取り直して顔をまっすぐ前に向ける。


それと同時に、総合受付のカウンターが視界を掠めた。
少し長めのボブヘアがよく似合う、スタイル抜群の美人が映り込み、ギクッとして足を止める。


私の隣を歩いていた菊乃が、数歩先まで行って立ち止まり、「夏帆ー?」と振り返っている。
このざわめきの中、その声が聞こえたとは思えない。
彼女はきっと、私が不躾に向けた視線に気付いたのだろう。
『あ』という形に口を開け、カツカツと高いヒールを打ち鳴らし、躊躇うことなく私の方に歩いてきた。


「あなた、この間会ったわね。椎葉さん……だったかしら。優の部下の」


行き交う人をものともせず、まっすぐこっちに向かってくる。
私と彼女の距離が狭まり、視界の真ん中でその輪郭が大きくなるごとに、私の心拍は速度を速めていく。
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