ラブパッション
受付嬢と短いやり取りをしてから、途方に暮れて立ち尽くす私の方に戻ってくる。
「さ、行きましょ」と、私の腕をグイと引っ張った。


「れ、玲子さ……!」

「食べる時間なくなっちゃうわよ。ほら、椎葉さん、どこか美味しいレストランにでも、案内してちょうだい」


怯む私に構わず、玲子さんは正面玄関に歩いていく。
私は及び腰で、足を縺れさせるだけ。


「あの、すみません。私、あんまりよく知らなくて……」

「う~ん。なにがいいかしら。手軽にパスタが食べたい気分かな」


玲子さんは、私に口を挟む隙も与えず、さっさと外の通りに出ていく。
この強引さに速いテンポ。
ちょっと前までの長瀬さんを彷彿とさせる。


東京のキャリアウーマンって、こんな感じなんだろうか。
玲子さんは、その典型のように思える。


アクティブで溌剌とした彼女からは、初めて会った時のどこか冷ややかな空気は感じられない。
あの時はどうして、と疑問に思いながらも、上司の奥様に連れ出されてしまっては、部下の私には拒否権などない気がする。
ここは、大人しく従うしかない。


そう意を決して、


「ちょ、ちょっと待って……」


なんとか体勢を立て直し、彼女について行った。
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