ラブパッション
長瀬さんは、「ふん」と鼻で笑ってから、私にニッコリと微笑んだ。


「椎葉さん、気をつけなよ~? 指導期間中に周防さんと親しくなりすぎると、先輩方から反感買うから」

「こら、長瀬!」


即座に女性たちからピシャリと一喝されて、長瀬さんは肩を竦めた。
どうやら、周防主任って相当人気があるらしい。
いったい、どんな人だろう?
私は苦笑を浮かべながら、倉庫の上司の言葉を思い出した。


『仕事もできるし、優しい男だよ』


もしかしたらそれが、その『周防主任』かもしれない。


「あれ? 当の周防主任はどこだ?」


課長が顎を撫でながら、誰にともなく問いかける。


「周防さんなら、今日、倉庫直行です。遅れていた、ドイツからの輸入貨物が届くとか。椎葉さんの着任日だし、朝礼には間に合わせるって言ってましたけど」


女性が手を挙げて返答すると、課長もああ、と相槌を打った。


「そうだったな。それじゃ、周防主任への紹介はまた後で……」

「おはようございます。すみません、ちょっと遅くなりました」


ちょうどその時、やや低いトーンの落ち着いた声が近付いてきた。


「ああ、来たか。周防君!」


課長が声を張って呼びかけると、グループのみんなが背後を振り返った。
長身の男性が、注目を浴びて、大きな歩幅で足早に歩み寄ってくる。
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