ラブパッション
玲子さんは私から目を逸らしたまま、答えるか答えないかを逡巡している様子だったけれど。


「ねえ、椎葉さん」


目線をパスタのお皿に落とし、フォークを弄ぶように動かしながら、私に呼びかけた。


「はい」

「あなた、この辺のお店は詳しくないって言ってたわね。本社勤務は最近になってから?」


さっき、私がお勧めのレストランに案内できなかったからこその質問だろう。


「はい。四月に異動になりました。それまでは、地元の倉庫勤務で……」

「優の部下になって間もないってことね。それじゃあ……あなたは知らないかしら」

「……? なにを、ですか?」


首を傾げて訊ねると、玲子さんがやっと私の方を向いた。
やけにゆっくりフォークを置いてテーブルに肘をのせると、もったいぶるように、顔の前で両手の指を組み合わせる。


「優が、結婚指輪をしていなかったこと」

「っ……!」


まったく予期していなかった質問に不意を衝かれ、私の手はビクッと震えてしまった。
手から落ちたフォークがお皿にぶつかり、ガチャンと硬質な音を立てる。
組んだ手の向こうから、私をジッと見据えている玲子さんの前で、動揺が隠しきれない。
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