ラブパッション
「で、でも。今は、周防さん……」

「私と優はね」


なにを言っていいかわからないまま、とっさに口を開いた私を、玲子さんは指を解きながら遮った。


「家でもほとんど会話をしない。一緒の空間にいることも少ない。いわゆる『仮面夫婦』というヤツ」


素っ気なく言い捨て、唇の端を歪ませるのを見て、私は無意識にゴクッと喉を鳴らした。


「あの……知ってます。周防さんが、指輪を嵌めていなかったこと」


背筋を伸ばし、肩に力を入れながら、思い切ってそう答えた。
玲子さんが、ピクリと眉を動かして反応する。


「社内で、お二人の噂は聞いていました。初めて玲子さんにお会いした夜、余所余所しくてなんか不自然だなって思ってしまって……」


あの時過った疑問を、再び心に浮かべた。
だけど、口にしていいものか迷い、声を揺らす。
玲子さんは、私が口を閉ざすまで、無言で観察していたけれど。


「……くっ」


突如、肩を揺らして笑い出した。
ここで笑われる意味がわからず、私はおずおずと視線を向ける。
玲子さんは、クックッと、ひとしきり愉快げに笑った後……。


「私たち夫婦の間の空気には敏感なのに、自分が絡むと鈍いのかしら」

「え?」
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