ラブパッション
「聞いてもいいかしら」


わざわざ、といった感じで前置きをする低い声に、私はビクッと身を震わせる。


「椎葉さんって、本当に、優のただの部下?」


私を見据える鋭い視線に、一気に追い詰められた気がした。
玲子さんが、今私になにを告げようとしているか、その輪郭がくっきりと見えてきて、鼓動が嫌な速度で加速していく。


息をのんだ後、一瞬呼吸のし方を忘れた。
頭の中でも、血管が脈打つ音がする。
激しい拍動を続ける心臓のおかげで、全身に血液が巡り、どこもかしこも熱くなる。


「あ、当たり前です」


なんとか返事をしたものの、第一声は喉に引っかかってしまった。
それだけじゃなく、即答できなかったせいで、彼女が不信感を強めた気配が、空気の震動で伝わってくる。


「……そう」


玲子さんは、私を視線から解放して、フォークを手に取った。
優雅な仕草で、くるくるとパスタを巻き取る。
私は黙って彼女の手に目を伏せる。
一点ばかりを見つめるうちに、視界の焦点がぼやけていくのを感じた。
玲子さんはそれ以上ツッコんでは来ないけど、絶対に返事が失敗だったのはわかっている。
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