ラブパッション
そんな私に、彼は表情を変えずに、小首を傾げた。


「玲子には『恋人』がいる」

「えっ……?」


優さんの言葉がすっきり頭に入ってこなくて、私は戸惑いを隠せずに聞き返した。


「不仲だって噂は、君も知ってただろう? その通りだよ」


オフィスで囁かれる噂を、他ならぬ優さん自身が淡々と口にして、皮肉気な笑みを浮かべる。


「二年くらい前からかな。ほとんど家に帰ってこないのも、全部が全部、仕事や出張って理由があるわけじゃない」


冷ややかな目をして自嘲気味に言い捨てるのを聞いて、私はなんと言っていいかわからず、絶句した。
だけど。


「もしかして……」


思考よりも感情が先走って、思い至った途端、弾かれたように顔を上げた。


「玲子さんの『恋人』、って……」

「そう。瀬名だよ」


私が口にするのを躊躇ったその名を、優さんはなんでもないことのように、サラッと唱える。
頭の中がガンガンして、私の目の前は一瞬真っ暗になった。


あの夜――。
私は確かに、三人の間に漂う空気に、歪みのようなものを感じた。
玲子さんの『襲撃』を受けた今、その感覚はさらに深く強まっていく。
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