ラブパッション
これから、私に実務指導してくれる『周防主任』だ。
私も、緩みかけた気を引きしめ、背筋を伸ばし……。


「……え?」


ドクッと、なにか沸き立つような心臓の拍動にのまれ、吸い込んだ息が、喉の奥でひゅっと変な音を立てた。


「おはよう、周防主任。こちら、今日からうちに配属された椎葉夏帆さんだ。二週間、面倒見てやってくれ」


課長に言われて、彼は柔らかく目を細めて応じている。


「初めまして。倉庫の高畠課長から、話は聞いてる」


彼は課長の隣で立ち尽くしている私に、気さくに声をかけてくれた。
そして、正面から目が合った瞬間……。


「っ」


私は、呼吸のし方を忘れて息を止めた。
呆然と大きく目を見開く私に、彼もほんの一瞬小さく息をのんだ。
その反応で、彼も『気付いた』と直感する。


ドクドクと、心臓が猛烈な速度で加速していく。
速い鼓動に呼吸が追いつかず息苦しいのに、私は彼から目が離せない。
彼の方は、すぐに先ほどまでの笑みを取り戻した。


「第一グループ主任の、周防優(ゆたか)です。よろしく、椎葉さん」


とても穏やかに挨拶してくれるのに、私はなんの反応も返せない。


「……椎葉さん?」


課長が、怪訝そうに私を呼ぶ。
< 15 / 250 >

この作品をシェア

pagetop