ラブパッション
諸連絡が終わると、グループミーティングは散会した。
みんな、それぞれのデスクに戻っていく。


周防さんは、課長から、私の指導スケジュールについて細かい指示を受けている。
デスクがどこかわからない私は、その横で待っているしかない。
その間、所在なく、足元ばかり見つめていた。


もう一度まっすぐ正面から見たりしたら、あの時の彼だと確信してしまいそうで怖い。
だけど……。


「お待たせ。じゃ、デスクに案内するよ」


周防さんは課長と話を終え、私に声をかけてくれた。
頭上から降ってくる低く柔らかい声にドキッとして、私は大きく振り仰いでしまう。
途端にバチッと目が合い、彼はわずかに怯んだものの、すぐにフッと口角を上げた。


「指導の間は、俺の隣で申し訳ない。長瀬の補佐に就くようになったら、他の女性たちとも近い島に移ってもらえるから」

「い、いえ。そんな」


喉が異常に乾いていた。
短い返事ですら引っかかってしまったけれど、周防さんは特に気にする様子もない。
そのまま私に背を向け、『ついて来て』というように、先に立って歩いていく。


ブラックスーツがとてもよく似合う、男らしい広い背中。
私は、この背中を覚えてない。
だけど、どんなに東京が狭くても、こんなによく似た人、そうそういるとは思えない。


周防さん、昨日の人ですよね……?
私は、先を行く彼の背中に、心の中で問いかけることしかできなかった。
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