ラブパッション
午前中は、着任に関する煩雑な人事手続きに時間を割かれて、あっという間に過ぎてしまった。


「夏帆~。お昼休憩だよ。ランチ、一緒に行こ?」


午前十一時半を過ぎた時、同期の小倉さんが私のデスクに誘いに来てくれた。
その後ろには、笹谷君もいる。
周防さんは会議に出ていて不在だけど、『昼は適当に取ってくれ』と言われているから、彼が戻ってくるのを待つ必要はない。


「ありがとう。嬉しい」


お昼の勝手がわからず、ちょっと心細かったから、二人の気遣いがありがたい。
心の底からホッとして立ち上がると、笹谷君も朝より気さくに笑ってくれた。


「せっかくだし、『歓迎ランチ会』で外に行こうか、とも思ったんだけど。初日だからこそ、社食案内した方がいいかって。システムとかわからないと、今後使い辛いでしょ?」

「うん。助かる」


小倉さんの提案に、私がはにかんで頷くと、笹谷君はさっさと背を向けた。
私たちを先導するかのように、オフィスの出口に向かっていく。


「笹谷、ね。無口だけどいいヤツだよ。あれ、照れてるだけだから」


低い声で、内緒話みたいだったのに、笹谷君には聞こえたようだ。
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