ラブパッション
せいぜい、地元の田舎町の五分の一ほどの面積しかない土地に、いったい何十倍の人が溢れているんだろう?
昨日、東京駅のホームに降り立ってから新居のマンションに着くまでの間、私は何度も竦み上がった。


みんな歩くスピードが速いし、ちょっとでも立ち止まろうものなら、後ろからドンとぶつかられ、追い抜いていかれる。
わざわざ振り返って、『邪魔だ』と言わんばかりに、濁った目で睨まれる……。


東京での生活には、激しい不安しかない。
『都会暮らしの先輩』である親友二人に話を聞いて、新しい生活に少しでも前向きにならなきゃ、と思っていた。


高校卒業以来だったからか、女子会も結構盛り上がったな。
うん。二人のおかげで、少し気持ちが晴れた気がする。
でも、ちょっと飲みすぎた。
頭ガンガンするし、昨夜どうやって帰ってきたのか、記憶がない……。


「……あれ?」


私はそこで、なにかおかしい、と異変に気付いた。
必死に視界の焦点を合わせようとして、目を細める。
そこまでしなくても、天井にぶら下がっている安っぽいシャンデリアが確認できた。


私の新居は、八畳ワンルーム。
狭い部屋に、あまりにそぐわない照明。
そもそも私の趣味じゃないし、あんなの買うわけがない。


もしかして、ここ、私の部屋じゃない……?
思考がそこまで働いて、私は急いで身体を起こした。
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