ラブパッション
この東京本社にいると、うちの会社が大手企業だという実感が湧いてくる。
このビルだけで、数千人の社員が働いているのだ。
もちろん、これからお昼のピークを迎える社食には、たくさんの人がひしめいている。


一瞬、中に入っていくのも怯んでしまったけれど、入社以来本社勤務の二人にとって、このくらいの混雑は珍しくもないんだろう。
二人は私を手招きして、メニューが並ぶショーケースの方に歩いていった。


「うちの社食はビュッフェスタイルなの。定食もあるけど、単品でも選べるんだ」

「へえ~」


すごいな~。
普通のレストランみたい。
私は素直に感服して、腰を屈めてショーケースを覗き込んだ。


「夏帆、どうする? 私、単品ビュッフェにするけど」


私はほんの少しだけ悩んでから、菊乃と一緒にビュッフェカウンターの列に並んだ。
笹谷君は、定食の列の方に向かった。


「会計は、最後にレジで社員証スキャンするだけ。給料天引き。どう? 一人でも来れそう?」

「大丈夫」


菊乃が確認してくれて、私は頷いてみせた。


「よかった。うちの部、営業社員のスケジュール第一だから、休憩時間まちまちなんだよね。一人で来ること、多くなるから」


わりと列は長かったけど、結構早く順番が回ってきた。
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