ラブパッション
抑揚のない淡々とした口調で言い添える優さんに、私は無意識にこくりと喉を鳴らした。
私の反応を拾ったのか、彼がわずかに口角を上げて微笑む。


「先週引っ越したばかりで、まだ物も揃っていない。少なくとも、夫婦二人の生活空間には見えないだろうから、夏帆も、嫌でも信じてくれると思うよ」


家に招くのは、『本当に離婚した』ということを、私に信じさせるためなんだろうか。
私の胸に、戸惑いばかりが色濃く広がっていく。


あれから――。
優さんは玲子さんの気持ちに正面から向き合って、二人の間のわだかまりも溝も埋めることができたと思っていた。
今度こそ、夫婦として。
一からやり直せたとばかり思っていたのに、離婚だなんて。


私にとっては青天の霹靂。
その上、どうしてそれを私に話したいのか……。


自分でも怖くなるくらい、胸の鼓動が速い。
おかげで、優さんからなにを聞かされるのか、緊張しているのを自覚する。


私は口を噤んで黙り込み、落ち着かない気分で窓の外に顔を向けた。
優さんも、それっきり、タクシーが目的地に着くまでずっと黙っていた。
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