ラブパッション
心、解き放ち
優さんの読み通り、タクシーはそれから程なくして、閑静な住宅街に佇むマンションの前で停まった。
先に降りた優さんの後に続く。
目の前に聳えるマンションを見上げる私の後ろを、タクシーが走り去っていった。


「行こう、夏帆。ここの五階だ」


優さんは私を短く促し、さっさとエントランスに入っていく。
私も、慌てて後を追った。


彼は『夫婦二人の生活空間には見えないだろうから』と言ったけど、マンションの外観はとても重厚で立派だから、外からではよくわからない。
でも、「どうぞ」と通された部屋は、確かに驚くほどの広さではない、1LDK。
私のワンルームと比べれば十分広いし贅沢だけど、夫婦二人で暮らすにはやや手狭だ。


本当に、引っ越してきたばかりなんだろうか。
リビングにもその奥の寝室にも、必要最低限の家具しか置かれていない。
平日は激務で片付ける時間がないからか、部屋の隅には手付かずの段ボールがいくつか積まれている。


プロがデザインしたインテリアの面影も感じ取れないから、ここが、玲子さんと暮らしていた部屋ではないことはわかる。
ガランとしたリビングの真ん中に、なぜか心細い気分で突っ立っていた私を、優さんが「夏帆」と呼びかけた。
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