ラブパッション
ハッとして振り返ると、私を通してくれた後、キッチンに行っていた彼が、麦茶を入れたグラスを二つ持ち、リビングに戻ってきていた。
彼は、オドオドと目を泳がせる私に苦笑して、グラスをローテーブルに置くと、先にフローリングの床にドカッと座り込んだ。


「夏帆。君も、座って」


クッションを差し出しながら、勧めてくれる。


「は、はい」


私はやっぱり室内を気にしながら、彼の前にちょこんと正座した。
優さんはグラスを一つ手に取ると、男らしい喉仏を上下させて、ゴクゴクと麦茶を半分ほど飲み干す。
私が黙って見守る中、「ふうっ」と一つ息を吐いた。


「玲子と結婚する前は一人暮らしで、こんな感じだった。この部屋に帰ってきて一人になると、離婚したんだなってしみじみ思う」


私がどんな思いでこの部屋を眺めていたか、まるで見透かしているかのように、優さんは呟く。
その表情はとても穏やかで、どこか晴れ晴れとして見える。
私は思い切って、ほんの少し膝を前に進めた。


「優さん」


やや硬い声で呼びかけ、話を促す。
彼も私に視線を向けて、何度か無言で頷き返してくれた。
グラスをローテーブルに戻し、胡坐を掻いた足の真ん中で、両手を組み合わせる。
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