ラブパッション
今、彼をちゃんとこの目に焼きつけたいのに、頬を伝う幾筋もの涙が邪魔で、歪んでしまう。


もどかしい。
私は焦燥感に駆られて腰を浮かせ、優さんに抱きついた。
すぐ耳元で、優さんが短く息をのむ気配を感じながら、しっかり首に両腕を巻きつけ、力を込める。


「夢、じゃない、ですよね」


つっかえながら、なんとかそれだけ返す。
喉の奥が、ひくりと震えた。
それを皮切りにして、嗚咽が込み上げてくる。


「夢じゃないよ。俺は……最初の夜から、夏帆に溺れてたんだ」


優さんが吐息交じりにクスッと笑って、私の耳をくすぐる。
ビクッと身を竦める私の背に両腕を回し、ぎゅうっと抱きしめ返してくれた。


「最初、って」

「あの夜君は……俺を逃れようのない孤独と寂寥感から、解き放ってくれた」

「……私?」


なんのことだかわからず、私は腕の力を緩めて、優さんを見つめた。
彼はやや顎を仰け反らせて私を見上げ、ふっと口元に笑みを浮かべる。


「俺は、君が強がったから、なんて言ったけど。本当は、それだけじゃない。いくら酒が入っていても、そんなことで女を抱いたりしない」


まだ瞳に涙をたっぷり湛える私の髪を、彼がさらりと指で梳いた。
横の髪を、優しく耳にかけてくれながら……。


「君が、俺の鬱蒼とした心の闇を見抜いて、癒してくれたからだ」

「え?」
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