ラブパッション
「いや、うん。忘れ物、取りに戻っただけ。夏帆ちゃんは気にしないで帰っていいよ。お疲れ様」


長瀬さんは私と目を合わせてくれないまま、まるで巻こうとするように一歩足を踏み出す。


「あ、待って!」


私は彼を振り返りながら、その肘を取った。
彼はビクンと身を震わせたものの、無言でその場に立ち止まってくれた。


聞く姿勢を見せてくれた。
そう感じて、私は彼から手を離した。
そして、


「金曜日、すみませんでした」


深々と、頭を下げる。
一拍分の間を置いて、長瀬さんが「え?」と聞き返してくる。
それを受けて、私はゆっくりと上体を起こした。


「あの……お誘い、お返事もできないままで」

「ああ……。いいよ、それは全然」


長瀬さんは、目線を足元に落としたまま、「はは」とぎこちなく笑った。


「俺と夏帆ちゃん、ただの先輩後輩なんだし。食事、行けなかったくらいで……」

「あの、私……地元に彼がいるっていうのは、嘘で。周防さんのこと、好きだったんです。彼と出会った時から、ずっと」


長瀬さんが、私と優さんの関係を追求せず、流そうとしてるのを感じて、思い切って畳みかけた。
私の予想通りだったのか、長瀬さんがギクッと身を竦ませる。


「長瀬さんが思ってる通り、周防さんの離婚は、私のせいです」


怯まないよう、一気に早口に重ねる。
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