ラブパッション
お昼休みを終え、午後からは会議室で周防さんからご指導を受けた。
社会人三年目にして、初めての海外営業事務。
貿易について、一から教えてもらう。


総務事務では絶対目にすることのない専門用語や英語ばかりで、ちんぷんかんぷん。
周防さんが、異国の言語を操ってるように思えてくる。


全然頭に入ってこない。
途中何度もこんがらがって、「うーん……」と唸ってしまった。
それでも周防さんは呆れもせずに、懇切丁寧に説明を繰り返してくれる。


私は、資料に落とした視線の先で動く彼の左手を、ぼんやりと見つめた。
その薬指に、やっぱり結婚指輪はない。


結婚して三年経つけど、子供はいない。
本当かどうかわからないけど、不仲だという噂。
指輪をしないのはそのせいかもしれないし、男性だし、つけない主義ということもある。
そのおかげで、私は菊乃たちから聞くまで、彼が『既婚者』だと全然わからなかった。


『結婚したい男No.1』と、女性からの評価も高い周防さん。
こうして根気よく仕事を教えてくれる彼だけ見てると、私も激しく同意できる。
でも、あの夜の人が本当に周防さんだったとしたら――。


私だってあんな失態、忘れてしまいたい。
なかったことにしたい。
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