ラブパッション
そうするためには、相手のことなんか知らずに過ごす方が、絶対安全。
だけど『似すぎている』周防さんを、意識してしまう。


奥様を裏切って危険な火遊びをする周防さんの、『裏の顔』。
彼に憧れる多くの女性が見たことのないそれを、あの夜私が見てしまったというなら、彼があんなことをした理由を知りたい……。


「椎葉さん? どうかした?」


周防さんの怪訝そうな声に耳をくすぐられ、私はハッと我に返った。


「ちょっと詰め込みすぎたかな。疲れた? 休憩しようか」


優しく穏やかな笑顔は、やっぱり昨日のあの人の寝顔を彷彿とさせる。
今、二人きりで誰の耳もないのに、相変わらず知らんぷりの彼に、焦らされた気分が強まる。


「あ、あの」


思わず呼びかけてしまったけれど、「ん?」と聞き返され、結局黙って首を横に振った。
こんなに普通にされたら、聞けるわけがない。
『一昨日の夜、私と会ってませんか?』なんて。


喉の奥まで出かかった質問をグッとのみ込むことはできたけど、確かめたい気持ちはすくすくと育っていて、私は一人、変なジレンマに陥る。


その後私は、目が合わないよう、ずっと俯き加減で説明を聞いた。
周防さんが不審に思っているのは気配から感じられたけど、彼も最後までなにも言わなかった。
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