ラブパッション
けれど、それ以上深読みしそうになるのを、私はなんとか堪える。


深い意味なんかない。
私は他の女子社員たちと比べても、世間知らずだから。
上司が目の離せない部下にハラハラしている、『放っておけない』というのは、そういう意味に決まってる。


「す、周防さんって」


この胸のドキドキをどうにか抑えようとして、私は大きく息を吸いながら呟いた。


「ん?」


彼の方は、惚けた調子で聞き返してくるけど。


「……なんか、小悪魔っぽいです」


何気ない彼の言葉の一つ一つに、いちいち反応して心臓がオーバーワークさせられる。
そんな感覚に陥っているのを自覚しているから、私は悔し紛れにそう言った。
周防さんは、きょとんとした顔で「へ?」と唇を動かし……。


「くっ」


口元に手を遣り、ちょっと吹き出すような仕草を見せてから笑い出した。


「なにが、おかしいんですか」


私は笑われたことに憤慨して、むくれ顔で刺々しく訊ねる。
彼は目尻に涙まで滲ませ、「いや、悪い」と謝ったけれど。


「小悪魔っていうのは、主に男が女性に対して向ける表現だね」


日本語の誤りを、指摘されてしまう。


「でも、周防さんってそんな感じです」
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