ラブパッション
『彼がいるから』が、断る理由にならないなんて。
オフィスの先輩と休日に映画に行くくらい、東京では『デート』とは言わないのかな。
でも、やっぱりそれはちょっと……。


途方に暮れていると、再びオフィスのドアが開き、菊乃が出てきた。
私に気付いて、「お疲れ~」と声をかけてくれる。


「困った顔して、どうかした? そういえば、今、長瀬さんがソワソワした感じで戻ってきたけど」


彼女はオフィスを振り返りながら、私の方に歩いてくる。
そして、私の手元に目に留め、ピンときたようだ。


「もしかして……早速、長瀬さんに誘われた?」


ニヤニヤしながら覗き込まれ、私は横に目を逃がした。


「映画かあ~。もらっちゃったってことは、夏帆、行くつもり?」

「いや、その……」


ツッコまれて、私は一瞬返事に窮した。
それを、迷いと受け取ったのか、菊乃が意地悪に笑う。


「夏帆、彼氏いるって言ってなかった? もしかして、可愛い顔して結構したたかなこと考えてる?」

「え?」


彼女がなにを言わんとしているかわからず、私は戸惑って聞き返した。


「地元の彼氏もキープしておいて、東京でも彼を作る。要は、二股……」
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