ラブパッション
「なっ……! そんなこと考えてない! 人聞き悪いこと、言わないでっ」


私はギョッとして、慌ててブンブンと首を横に振った。
『キープ』なんて、私にはかなりショッキングな言葉。
なのに、それを疑われたら堪らない!


「長瀬さんには、後でちゃんと……」


ムキになって弁解しようとすると。


「なに、廊下で盛り上がってるの」


ちょっと呆れたような、柔らかい声に遮られた。
菊乃と同時に、声がした方向に顔を向ける。
これから外出といった様子の周防さんが、こっちに歩いてくるのが見えて、私は勢いよく目を逸らした。


「あ、周防さん! 聞いてくださいよ~」


私の隣で、菊乃が周防さんに声をかける。


「ん?」

「夏帆、長瀬さんから映画に誘われたんですって!」

「ちょっ……菊乃!?」


いきなり周防さんにそんな報告をする菊乃を、私は焦って止めようとした。


「長瀬から?」


なのに周防さんが、目を丸くして、菊乃に聞き返してしまう。


「あ、あのっ……」

「夏帆、地元に彼氏いるのに、チケット受け取っちゃうとか。なかなかしたたかな悪女ですよね~」


冷や汗を掻きながら言葉を挟んだ私に、彼女が意地悪に横目を流してくる。
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