ラブパッション
周防さんが目を丸くして「へえ」と呟くのを聞いて、私は声に詰まってしまった。


「なるほど。それは、確かに『したたか』かも」


クスッと笑いながら返され、私の胸がズキッと痛む。


「あ、あの、ちが……」


必死に説明しようとしたものの、上手く弁明できる言葉が見つからない。


「まあ、あんまり褒められたことじゃない。男は結構ヤキモチ焼きだから、ほどほどにね」


周防さんは軽い調子で私を咎め、ポンと肩を叩いた。


「じゃ、行ってくる。一時間で戻るから」

「行ってらっしゃい」


菊乃が頭を下げると、彼は私の横をスッと通り過ぎていく。
周防さんが残した微かな風が、私の心に小さなさざ波を立てる。


「っ……周防さんっ!」


私は弾かれたように、エレベーターホールに消えていく背を追いかけた。


「え、夏帆!?」


菊乃がギョッとした様子で私を呼ぶのを耳にしながら、廊下を走る。
周防さんが、まさにエレベーターに乗り込むところで追いつき、


「ま、って!」


私は、閉まりかけたドアに飛び込んだ。


「え? 椎葉さん?」


突然駆け込んだ私に驚いて、周防さんがボタンを押してドアを開けてくれた。
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