ラブパッション
「危ないな。どうしたの」


周防さんが眉根を寄せて、私に注意する。
私を乗せて、エレベーターのドアが閉まった。
私はバクバクと打ち鳴る胸に手を置き、思い切ってグッと顎を上げた。


「ち、違うんです。私、あの……」


必死の形相の私に、周防さんが訝し気に眉間の皺を深める。
彼の視線を浴びて、私はぎゅっと胸元を握りしめた。


「わ、私。本当は、地元に彼なんかいないんです。長瀬さんのことも、とっさに断れなかっただけで……」


なにから言っていいかわからないほど、混乱してる。
なのに私は、周防さんに誤解されたくなくて、ドアに挟まれそうになってまで、飛び込んだ。
泣きそうに顔を歪めながら、弁解しようとしている。


どうして、そんなこと。
私自身、自分の衝動的な行動に動揺して、上手く説明できない。


「私、誰とでも、とか。本当に、そんな女じゃない。私……」


もっとちゃんと伝えたいのに、声に詰まってしまう。
周防さんは黙ったまま、やや硬い表情で私を見下ろしている。
視線が降ってくる中、私はグスッと鼻を鳴らした。


周防さんの顔を見るだけで、心拍が上がる。
彼の前で平常心を保つのに、私はものすごいエネルギーを使ってる。
< 52 / 250 >

この作品をシェア

pagetop