ラブパッション
それでもこんなに必死に訴えかけるのは、やっぱり、あの夜の人は周防さんかもしれないという疑念が、いつまでも消えないせいだ。
それならいっそ、はっきりと聞き出してしまった方がいいのかもしれない――。


私たち二人を乗せたエレベーターは、高層階と低層階の連結フロアまでノンストップで下降していた。
この先、エントランスフロアまで、誰も乗ってこない。
私はゴクッと唾を飲んで、カラカラに渇いた喉を少し湿らせてから、思い切って口を開いた。


「す、周防さん。あの夜……」

「そんな女だなんて思ってないから、安心して。長瀬は強引だし、断る隙もなかったんだろ?」


意を決して切り出した途端、遮られた。


「っ。周防さん、私」

「椎葉さんのことを『悪女』だなんて思わないよ。でも、彼がいるっていうのが嘘なら、長瀬を断る必要もないんじゃないか?」


思いも寄らない言葉に絶句して、私は俯いて唇を噛んだ。
言いたいことを言わせてもらえない、もどかしさ。
でも、夢中で言い募るしかできなかった自分が恥ずかしくて、喉まで出かかってのみ込んだ言葉は、もう口を突いて出てくれない。
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